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しまぞーり 私のウチナーグチ考 しまぞーり

1960年生まれ、一緒に住んでいた祖母や両親との会話は100%標準語、祖母、 両親間の会話は100%ウチナーグチで、それを聞いて育った私なりのウチナーグチに対する思い出や思 い入れを紹介します。

第47回 煙草の思い出

私は現在喫者ではなく、過去に喫煙したことも、いたずらで吸ったこともありません。もともと煙 草の煙が苦手だったこともありますが、思い返してみると、私が今煙草と無縁で、禁煙のためにあ れこれ悩む必要がないのは、一人のおばさんのお蔭だったなあ、とつくづく思うので、今回はその 思い出について書いてみます。

中学生になると、喫煙が見つかって教師に叩かれる、何らかの処分を受ける、ということがときど き起こり、煙草を吸うのは不良、という考えがばっちり植え込まれました。なので、ぼうっとした、どちら かというと優等生だった私には、煙草は全く関係のないものだったのですが、高校生となると、不良 じゃなくても好奇心旺盛な子はちょっと吸ってみるようになります。しかも、現在と違って社会がまだ 煙草に寛容で、喫煙者は吸いたい時にどこででも吸っていましたし、テレビドラマでも喫煙シーンが 当たり前のように頻繁に出てきていました。俳優がかっこよく吸っているシーンを見ると、ちょっと 吸ってみようかな、という意識も芽生えてきました。そして私が煙草を吸っても許される年齢になっ た頃、桃井かおりが人気女優で、彼女の喫煙シーンがまた格好良かったので、大人のかっこいい女性 は煙草をスマートに吸うのだ、とも思っていました。

そんな頃でも、自分は格好いい大人の女性じゃないし、やっぱり煙草は無縁でした。でも、ある日ふと リバイバル上映されていた映画「ヘアー 」 を、桜坂オリオン(?桜坂にあった古い映画館で、少し古い映画を二本立て千円で上映していた)で 何気なく観たのですが、これが予想以上の名画で、1960年代のハチャメチャな空気をよく伝えている 音楽や踊りに、すっかり夢中になっていました。この映画の中で、バーでヒロインが煙草を吸うシーンが あるのですが、彼女が煙で小さなリングを作って吐き出すと、向かいに座っていたおじさんが一回り大きな リングを吐き出して、二つのリングが交差するのです。そんな技?を見たことのなかった私は、おお、 かっこいい!と思い、絶対自分も煙草を吸ってリングを作るのだ、と決心したのでした。

当時、桜坂から平和通へ抜ける筋小(すーじぐゎー) には、おそらく米軍からの横流れ品の化粧品や煙草を画板のような小さな板の上に並べて売っている店 が、びっしりと両脇に並んでいました。映画を観終わって映画館を出ると、私はすぐに映画のヒロインが 吸っていたのと同じ外国の煙草、キャメルを買おうと、その店というか、板の前に立っていました。 駱駝の図柄も一段と目立つ、他の煙草より一回り小さなキャメルの箱を手に取って、おばさんに「いくらですか?」 と聞くと、そのおばさんは、

ねえさん、うれーちゅーさんどー (これは、強いよ)、とひとこと。

素直な私は、えええ、そうなのか、じゃあこれ、と別の外国産の煙草を取り上げると、おばさんは、

うりんちゅーさんどー (これも、強いよ)

と、言うではありませんか。それじゃあ、これ。と手当たり次第に煙草を取り上げるも、おばさんは うりんちゅーさっさー(これも強いねえ)を繰り返すばかり。

じゃあ、どれが弱いんですか。と、やけくそ気味に問う私におばさんが指差したのはマイルドセブン。しようがないなあ、 と買おうとしましたが、どう見てもダサい。そこらへんのおじさんが吸っている煙草と同じじゃあ、 吸わない方がいいじゃん、と思い直し、「あ、じゃあ、いいです。」と買わない意思を表すと、おばさんは にこりともせず、「その方がいいさあ。」とひとこと。

その時は、おばさんよう、黙ってキャメルを売ってくれればいいのに、と思いましたが、あれはあの 無愛想なおばさんの優しさだったのだな、と今は感謝しています。というわけで、キャメルの煙草を 見かけるたびに、うれーちゅーさんどーという素っ気ないおばさんの声が聞こえてくるのです。

02/27/13

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