Home>今月のレビュー>サイトマップ
|
外国人来琉記 | 夫が以前購入し書棚に積んでいた本で、なぜか先日目に留まり読み始めてみたら、すごく
面白かったのでここで取り上げることにしました。 最近琉球王国 -東アジアのコーナーストーン (講談社選書メチエ) を読んだり、ドキュメンタリー映画よみがえる琉球芸能 江戸上りを 観たりして琉球の歴史に大いに興味が沸いているところだったので、非常に興味深く読みました。 2000年の沖縄サミットを記念して出版された本のようですが、まずは編訳に当たった山口氏の 労作であることに、敬意を表したいです。 |
現在NHKで放映されている琉球末期を舞台とした時代劇テンペストを毎週観ているのです が、その登場人物の何人かがこの本にも登場していて、荒唐無稽すぎて無理、と思われたドラマも 背景を本で読んで多少知っているので結構楽しんでいます。ベッテルハイムを意地悪に描きすぎだな あ、とか、徐丁垓ってこんなだったのか?とか。
この本で紹介されている西洋人の琉球にまつわる文章を読んでいると、ウチナーンチュとしての自尊 心がくすぐられ、まあ読んでいる間中気持ちいいです。特に、最も頁数を割いているバジル・ホール の「朝鮮西部沿岸及び大琉球島航海探検記」は、この小さな島に「大」までつけて持ち上げて好意的 に書かれています。同時に、当時の景色や風俗を知る資料としても、興味深いものがあります。ジョ ン・マクロードの「アルセスト号朝鮮大琉球島航海記」も同様で、景色の美しさ、住民の清潔さ、何 より礼節を重んじ、滞在中何かが住民に盗まれるということは一度もなかった、と書かれています。 突然やってきた英国人に怯えつつ興味津々、求められる以上に食料や水を与え、交流を深め信頼を得 ていく琉球人。英国人が琉球に別れを告げる場面では、思わず涙しました。
通訳も仕事としている私にとって、バジル・ホールの来琉記に詳しく書かれている真栄平という、か なり身分の高そうな役人は特に興味を引きました。強い好奇心と向学心、高い知性の持ち主でABC のAも知らないところから英語を学び始め、数ヵ月後には大抵のことは理解し、自分の意思も伝えら れるようになり、通訳の役割を果たすまでになります。ことばだけではなく、西洋人の身のこなしや 食事のマナーまで真似して、瞬く間に自分のものにしていく真栄平については、かなり魅力的にいき いきと描かれていて楽しめました。
編訳の山口氏の思い入れが強すぎて息苦しさを感じることもありましたが、この真栄平をはじめ琉球 人が外から突然やって来た外国人にどう対応し、もてなしたか、は現在でも国と国の付き合い方、人 と人との付き合い方のお手本にすべきと強く感じました。とことん礼を尽くす、ということですね。 ちっぽけな島の住民が当時の先進国の英国民を驚嘆させ、琉球が武器のない平和な理想郷として紹介 されていることは、ウチナーンチュとしてまったく誇らしいことですが、その琉球人の子孫や沖縄県 の現在の状態は果たして世界に誇れるものか、と考えさせられました。
今でも癒しの島、県民は柔和でやさしいともてはやされ、独特の芸能や文化は賞賛されていますが、 基地を押し付けられ、県民所得は全国一低く、肥満率や失業率も全国トップレベル、という現状は とても誇れるものではありません。バジル・ホールの時代の琉球人(現実より美化されているきら いはあるものの)にならって、持てる知恵をいかんなく発揮し、礼節を尽くし、現状を打開すべく 努力すべきでは、と思いました。
9/16/11
このページに関する要望、感想などはこちらへ