Home>今月のレビュー>サイトマップ


今月のレビュー

このページでは、沖縄関連の本、音楽、コンサート、映画などを論評(レビュー)していきます。

今月は、国立近代美術館主催の沖縄プリズム展の関連イベントとして、去る2008年12月16日に 一夜限りで東京で30年ぶりに上演された戯曲人類館 です。 

〈キャスト〉
調教師:上江洲朝男
男:花城清長
女:小嶺和佳子

〈スタッフ〉
作:知念正真
演出:幸喜良秀
演出補:西蔵盛史子
照明:稲嶺隆、金城悟、棚原栄作 音響:当真彰 装置:仲宗根満
舞台監督:崎浜茂
衣・化粧:高宮城六江
制作:又吉英仁

沖縄プリズム展のチラシでこの人類館上演を知ったときから、平日の夕方、遠くの会場、という 普段なら即あきらめる条件にもかかわらず、絶対に行こう、と決めていました。どんな内容の演劇 なのか全く知識はなかったのですが、昔から(1976年初演)いろいろなメディアで話題になっ ていて、いつか観なくてはいけない劇ということで、私の頭の中にインプットされていたのだと思 います。「近現代の沖縄が経験した苦難の歴史を『喜劇』として描き出した」というチラシの説明 に、これはやっぱり観に行かねばならない、との思いを強くしたのでした。

万難を排して会場の早稲田大学大隈記念講堂に出かけてみれば、重要文化財で1,100名を収容で きる講堂はほぼ満席で、ゴシック様式のシックな講堂で沖縄の芝居が上演されるということに、まず 複雑な感慨を覚えました。嬉しく、誇らしい気持ちと、少しばかりの違和感と。でも、人類館 は私が子供の頃から慣れ親しんでいる沖縄(ウチナー) 芝居ではなく、第22回岸田戯曲賞を受賞したれっきとした新劇なのだ、と気持ちを正して開演を待 ちました。

人類館に展示される男女二人の「かぎやで風」で芝居が始まりますが、女役の小嶺和佳子の端正な 容姿と踊りに、私の視線は釘付けになりました。優美な踊りを踊りながら、この後の悲しい展開を 象徴するような悲痛な面持ちから目が離せません。調教師役の上江洲朝男のすべらかなヤマトグチ の台詞回し、男役の花城清長のいかにも沖縄の男、という表情や動きに、すっと劇の世界に入って 行けました。

とにかく、この役者三人のうまいこと。一幕一場の劇なのに場面展開が速く、三人が何役もこなして いくのですが、原作・脚本がうまく練られているとしても、この三人の演技力・技量がなければ成り 立たない芝居だと思いました。特に小嶺和佳子が達者で、遊女、戦後の米兵相手の売春婦、ひめゆり の女学生(ウチナーカンプーがさすがに邪魔でしたが)、戦火を逃げ惑うオバアなどを次々に演じて いくのですが、どれも見事で、これらの役を通して沖縄の哀しみを体現していました。

私は東京で、ヤマトゥンチュのような顔をして生活し、ときどきウチナーンチュであることを自慢 したりして、そんな自分に何の違和感も持っていませんでしたが、本当にそれでいいのか、と魂を 揺さぶられる芝居でした。正確ではないかもしれませんが、「あいつはヤマトゥーふうなー して(日本人と偽って)出世したから殺されても当然さ」という台詞が胸に刺さりました。

そして、人類館がヤマトで上演されることには大きな意義があるけれど、私はやっぱり沖縄で、 観客はほぼ全員ウチナーンチュという劇場で観てみたい、と思いました。大隈講堂では、明らかにウ チナーンチュと思しき人がちらほら、圧倒的多数はヤマトゥンチュで、でもほとんど沖縄フリーク・ 沖縄マニアだからメッセージは伝わったと思うのですが、ウチナーグチの台詞で爆笑しているのは、 私の周辺では私だけ。役者もここでは爆笑して欲しいんじゃないかな、やりにくいだろうな、と同情 しました。

例えば、冒頭で鞭を振り回しながら調教師が「差別は無知から来るのである。ちょっと、ムチかしい ?」と言うところがあって、鞭と無知をかけているのでちらほら笑いは起こっていたのですが、ウチ ナーグチでは(ムチカ)しい、ともかかって くるので結構笑えるんですね。ちなみに、帰宅してから夫にこの話をすると、椅子から転げ落ちる ほど爆笑していました。話の大筋にはあまり関係ないけど、台詞回しに結構笑えるところがあって、 それが人類館が喜劇たる所以だと思うのですが、ヤマトでの上演ではあまり笑われなくて 物足りないのです。沖縄の劇場で、爆笑の渦に身をゆだねて私自身も心置きなく大きな声を出して 笑いたい、と思いました。

このところ個人的にヤマトゥンチュによる「なんちゃって琉舞」やテーゲー(いい加減な)島歌に 接することが多く、それはそれで楽しいのですが、小嶺和佳子の正統的な節回しや踊りを観て、やはり 本物はいい、との思いも強くしました。そして久しく観ていない沖縄(ウチナー) 芝居が観たい、と切に思いました。

12/22/08

このページに関する要望、感想などはこちらへ

お名前:
メールアドレス:
ご感想:

HOME