しまぞーり 私のウチナーグチ考 しまぞーり

1960年生まれ、一緒に住んでいた祖母や両親との会話は100%標準語、祖母、 両親間の会話は100%ウチナーグチで、それを聞いて育った私なりのウチナーグチに対する思い出や思 い入れを紹介します。

第8回 オバア達の外来語・その3

オバア達の外来語、今回は私の母が使うちょっと変わった外来語を紹介します。
彼女は十代後半から25歳で結婚するまで、「ハーバービュークラブ」という米軍の将校クラブでウェ イトレスをしていました。基地の中によくあった、かまぼこ型の建物だったのですが、男性はネ クタイをしていなければ入れない高級クラブで、その跡地に建っているのが現在のハーバービューホテ ルです。子供の頃何度か行ったことがありましたが、映画「スティング」に出てくるような雰囲気のバ ーがあり、ビッグバンドの演奏や葉巻の匂いがあり、要するに一歩入ればそこはアメリカ、という場所 でした。

そんなハーバービュークラブで働くウェイトレスは全員英語が話せる沖縄の女性だったのですが、彼 女達を統括していたのが米国人の年配の男性で、このマネージャーを彼女達は「タンメー」と呼んでい たそうです。タンメーはウチナーグチでおじいさん、という意味。おそらくここでは、日本の職人が親 方を呼ぶときに使う「オヤジ」というニュアンスでしょう。で、マネージャーの名前がチャーリーなら 「チャーリータンメー」。あのいかにもアメリカ、という場所で米国人マネージャーを「タンメー」と 呼ぶとは、いかにも沖縄のオバア予備軍らしい逞しさとユーモアに満ちています。このチャーリー というのも、ウチナーグチのターリー(お兄さん)や沖縄で昔使われていた男の子の名前、サンラーや ジラーの親戚みたいな響きで笑えます。

私の実家には昔、「シベリアンタンメーのみずや」という茶箪笥がありました。いかにも西洋人が好 みそうな彫刻細工がたくさん施されたもので、母が結婚する時、マネージャーだったシベリアンタンメ ーが贈ってくれたのだそうです。私はずっと、写真で見ると背が低く小太りの、いかにもイタリア系アメ リカ人といった感じのマネージャーがなぜ「シベリア」なのだろう、と疑問に思っていました。時は冷 戦の真っ只中で、米軍の将校クラブでシベリア出身者が働くわけはないし、と。最近母に聞いてみたと ころ、「民間から来たからさぁ。」という返事。歴代のマネージャーは退役軍人など軍属の人だったけ れど、シベリアンタンメーは民間出身者だったと言うのです。

シベリアンって、シベリアンハスキーのシベリアンではなくて、シビリアンコントロールのシビリアン、 civilian だったんだ!
恐るべし、わが母とその仲間達。辞書を引いてみると発音は[i]でアクセントも付いていますが、おそ らくシベリアン、シブリアンと発音してもネイティブには通じるでしょう。

この母はストッキングをスターキン、シチュウをストゥー、ツナをトゥーナー(沖縄のオバアはほぼ全 員こう言うでしょう)と言います。何だかなまっちゃって田舎者め、と思っていたのですが、彼女の 発音の方が原語に近いことは言うまでもありません。ちなみに彼女に言わせるとハーバービューは「ハ バビュー」となります。現在毎月1回レストランやホテルでランチを共に楽しむ元ウェイトレス仲間の ことは、「ハバビューシンカ」または「クラブシンカ」。シンカは、ウチナーグチで仲間という意味で す。

そんな彼女が、昔バイクに熱中していた弟がツー リングに出かける時は、口をすっぱくして「テツボウかぶってよ〜」と言っていたのです。最初に聞い た時は「鉄棒をかぶる?」と思ったのですが、鉄棒ではなく鉄帽と言っていたのでした。これだけ英語 に親しんでいた人なのに、何でヘルメットって言えなかったのでしょうね、全く沖縄のオバアは摩訶不 思議です。

オバア達の外来語、まだまだ続きそうな予感です。次回は英語以外の言語からの外来語を取り上げよう と思っています。

しまぞーり

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