私のウチナーグチ考

第40回　名前の呼び方

先日高校生の息子が友人を家に呼んでサッカーのテレビ観戦をしたいがいいか、と聞くので、気軽に いいよ、と答えたのに、息子は意外と浮かない顔。しばらくして、ぜったいに「○○ちゃん」って呼 ばないでよ、と怖い顔で命令します。最近、彼の友人の前で私が無意識にちゃん付けで呼んだらしく、 「もう、サイテー。」と嘆いていたのでした。自分より大きくなった息子をちゃん付けで呼ぶのは おかしいらしい、と私も思っていて、人前では呼ばないように気を付けてはいたのですが。それ以後、 息子は、身内だけの時もちゃん付けするな、と言っています。

そうは言っても、なかなか実行できない私です。もう昔のように抱っこしたりつねったり出来ないん だから、せめて名前くらいちゃん付けで呼ばせてくれ、という気持ちもあるし、何よりウチナーンチ ュは大の大人をちゃん付けで呼んではばからない、ということもあると思います。私の父などは死ぬ まで、死んだ後も大叔母や従姉たちから「あきちゃん」と呼ばれていましたし、私も沖縄に帰れば おじさんおばさん、年上のいとこ達から、未だに「なおみちゃん」と呼ばれます。

どうもウチナーンチュは、呼称について厳格さに欠けると言うか、いい大人がみっともない、という 意識がないように思います。学生の頃、本土から沖縄に来た同級生に「沖縄の人は自分のことを名前で呼ぶ人が多い」と言われて、 ハッとしたこともありました。私自身がそうだったし、周囲にも確かに多かったように記憶していま す。小学生の頃、同級生の女の子はたいてい自分のことを「ウチ」と呼んでいて、私も真似して「ウ チがさ、」と家で話し始めたら、自分のことを名前で呼んでいても何も言わなかった父が「お前は 家(いえ)か」と嫌がったので、それ以降「ウチ」と言っ たことはありませんでした。

こんな私でも、東京に住むようになってさすがに自分のことを名前では呼びませんが、実家に帰っ て母や弟達と話している時にふと「なおみが」と言ってしまうことがあって、そういう時は自分でも 「うわ、気持ち悪い」と思います。それでも、自分の子どものことはいつまでもちゃん付けでいいの だ、と思っていました。娘の保育園の頃からの仲良しの数家族は、今でも年に一度は集まるのですが、 みんな自分の子どもを私と同じようにちゃん付けで呼び、よその子もちゃん付けで呼んできたのに、 あるときふと気付くと、私以外の親は自分の子供を呼び捨てにし、○○ちゃん、だった私の息子を ○○君と呼んでいます。

私の子ども達もいち早く私の異常さに気付き、ちゃん付けで呼ばれるのを嫌がるようになりました。 「ようちゃん」とか「さっちゃん」とか、「ようこ」「さちこ」より呼びやすくて可愛いと思うんだ けどなあ、と未だに納得できない気持ちもありつつ、一応周囲に合わせて、男の子は君付けで呼ぶよ うにしているのですが、なかなか。。。そういう呼び方をする社会で育ってないからかなあ、と思い ます。だから、自分のことを名前で呼んでいるウチナーンチュがいるとしたら、それは甘えん坊で 世間知らずなわけではなく、そういうことが当たり前の沖縄で育ったから、だと思います。

名前の呼び方で、逆に私がう〜ん、沖縄にはなかったなあ、と強く違和感を覚えたのが、男性の苗字に 「ちゃん」をつける呼び方。職場で、「田中ちゃん、これ明日までに頼むよ。」なんて言うのを聞 いた時は、いいおっさんが何？と驚きました。結構みんなそういう呼び方をしていて、そのおっさ んが変態なわけではない、とすぐに分かりましたが。沖縄では男の人を「新垣ちゃん」とか「金城 ちゃん」とか呼ばないと思います。職場で私のことを「おぎちゃん」と呼んでくれる女子もいまし たが、最初はやはり、え？と思いました。

沖縄では大人でも子どもでも親しい人を名前で呼び捨て、にすることが多いですが、そこは沖縄ら しく、かならず語尾を伸ばします。女の親戚に「あきちゃん」と呼ばれていた父は、男の親戚や友人 たちからは「あきらぁ」と呼ばれていました。チャービラサ イを書いてくださっている稲福達也氏が数年前に、ちゃんぷるー・どっとこむに 寄せてくださった原稿を含め、自分の過去の原稿を本にまとめて親しい人たちに配ったことがありま したが、その本のタイトルは「たつやぁの話」でした。彼も還暦を過ぎても、友人達からは「たつやぁ」 と呼ばれているのでしょう。

ただし語尾を伸ばすこの呼び方、女子の場合どうも野暮ったくなります。「なおみぃ」と呼ばれると （呼ばれたことはありませんが）、川で芋でも洗っていそうな感じがします。周りのヤマトゥンチュは ぎょっとするかもしれませんが、やはりオバアになっても親戚には「なおみちゃん」と呼ばれたいなあ、と 思います。

11/24/11

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