私のウチナーグチ考
1960年生まれ、一緒に住んでいた祖母や両親との会話は100%標準語、祖母、
両親間の会話は100%ウチナーグチで、それを聞いて育った私なりのウチナーグチに対する思い出や思
い入れを紹介します。
第4回 アッと驚かない
沖縄人
前々回日本語に気をつけるようになった、と書きましたが、咄嗟に出てくる間投詞、感嘆詞は未だ
にウチナーグチの方が多いです。戦前の沖縄で標準語奨励策として、学校で方言を使った子供には方言
札と呼ばれる札が掛けられることになっていたらしく、それを持ち帰るのが嫌で、帰り支度の後級友の
足を踏んで「アガッ」(ウチナーグチでイタッという感じ)と言わせ、その子に方言札を掛けて逃げ帰
った、というのは昭和一ケタ生まれの人によく聞く話。
私も東京で派遣社員として働き始めた頃、似たような経験をしました。会社で自分の翻訳原稿の見直
しをしていて、考えられないミスを発見した時思わず大声で「アイッ!」周りの社員の人たちは「なに、
何事?」とびっくりしていました。「何で、ただ驚いただけさぁ。」と思いましたが、この時「そうか、
ヤマトゥンチュはアイッとは驚かないわけね。」としみじみ思ったのでした。
沖縄人
はアッと驚きません。アイッと驚くのです。
アイッと似たような感嘆詞に、がっかりした時やミスをしたときに言う「アイヤー」があります。
「しまった」「あら?」「あれあれ?」みたいな感じでしょうか。いろいろバリエーションがあって、
「アゲ」「アギジェ」「アギジェベ」など、地域差というより個人差という印象です。私の母などは、
私がひどく間抜けなことをことをした時、例えば上等の肉を不注意に黒焦げにしたときなどに、「ア
イエーヤーフンヌ」と言っていました。「フンヌ」は憤怒なのかどうか確かめたことはありませんが、
これを聞くと、本当に自分が情けなくなったものです。
さて、アメリカに留学していた時のこと。私のいた大学には日本人は4人しかいませんでしたが、アジ
アからの留学生は何百人もいて、彼らに親しく声を掛けてもらっていました。でも当時は英語を勉強
しに来たのであって、彼らと遊ぶ暇はない、と思っていて、アメリカ人に呼ばれるパーティーには時間
が許せば行くようにしていたものの、アジア人の集まりに顔を出すことはありませんでした。試験が終
わって時間のあった土曜日の午後、中国系マレーシア人のグループに一緒にバドミントンやらない?と
誘われ、初めてたまには体も動かさなきゃ、と体育館に行ってみました。体育館の扉を開けた途端聞こ
えてきた声は...「アイヤー」だったのです。
彼らはミスショットを打つたびに、相手のショットを取りそこなうたびに、「アイヤー」と叫んで
いたのでした。アメリカの田舎の大学の体育館にこだまする「アイヤー。」すごく奇妙な感じでしたが、
私と彼らの距離がぐっと縮まったのは言うまでもありません。
皆さんのまわりで「あ」と言うべきところを「あい」と言っている人はいませんか?失敗した時「
あいやー」と言っている人はいませんか?その人はきっと
沖縄人
に違いありません。
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