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[ちゃんぷるー・どっとこむ応援団(チバリヨー) 寄稿]

チャービラサイ/2010・夏

文・写真 稲福 達也

真夏の夜の夢

 チャービラサイ、荻堂さん。まぶしい朝の光とともに蝉がせわしく鳴き出し、いよいよ夏本 番です。先日、住宅街に住んでいるKさんが「最近、妙な鳴き声がすると思ったら、隣の家が庭で ヒージャー (ヤギ) を飼っていたので驚いた」と言うので、職場でヒージャー談義になりました。 Kさんの話では、そのヒージャーはペットなのか、それとも“ヒージャーグスイ(薬膳)” とし て食べるつもりなのか、見当がつかないそうです。
 その時のヒージャー談義で、僕は二つの話をしました。その一つは、沖縄の詩 人山之口獏の詩『生活の柄』を歌った孤高のフォークシンガー・高田渡 (1949−2005) の話。彼の ことを若い職員は誰も知らなかったのですが、彼は、著書『バーボン・ストリート・ブルース』で、 ヒージャーを乳用にするヤマトと食用にするウチナーの違いをこう書いています。「月足らずの子 供で、母の乳を受け付けずに吐いていたそうだ。しまいには医者にも見放され、それで家にいたヤ ギの乳を飲ませたところ、だんだん元気になっていったという。だから僕が育ったのはジャンプするイルカ
ヤギの乳のおかげである。生みの母は人間、育ての母はヤギという訳だ。あろ うことか、沖縄ではヤギを食べる。沖縄へ行くと、ごちそうしますよ、と言ってヤギ料理を振る舞 われそうになるが、今でもそれだけは固く辞退することにしている。さすがに母を食べることはで きない」。
 もう一つの話は、寝つかれない時に「羊が一匹、羊が二匹・・・」と数えるという話に関するも のです。沖縄に講演で来たヤマトゥンチュが、最初にジョークで「いつもは羊を百くらい数えれば 寝るのですが、沖縄に来た昨晩は、羊を千、二千と数えても寝つかれませんでした。皆さん、沖縄 には羊がたくさんいるんですね」と言ったが、誰も笑わず会場はシーンとしたまま。後で受講生の 一人がやってきて、真面目な顔で言ったことは「先生、沖縄にいるのは羊ではなくてヤギです」。 ウチナーにヤギの食文化があることを知っていて、「ヤギが一匹、ヤギが・・・」と言っていた ら大ウケだったでしょう。
 荻堂さん。東京ではヒージャーを食べるという訳にもいかないでしょうから、真夏の夜の夢にヒ ージャーでも見て、夏バテを乗り切って下さい。Kさんの隣家のヒージャーがどうなったか、また 便りを出します。



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