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[ちゃんぷるー・どっとこむ応援団(チバリヨー) 寄稿]

チャービラサイ/2012.夏

文・写真 稲福 達也

沖縄の縁

 チャービラサイ、荻堂さん。太陽が近い季節になりました。暑さにへたばりながら どうにか仕事をしていますが、熊本に出張したらこんなことがありました。
 沖縄へ帰る日の朝、熊本駅までホテルで客待ちをしていたタクシーに乗ると、年配の運転手さんがすぐに 熊本弁で「お客さん、どこから来なさっとですか?」と話しかけてきて、「沖縄です」と言うと、「沖縄で すか!ワタシャ、沖縄の人には縁≠ェありますもんね」と懐かしそうに話し出しました。その縁というの は、戦争中に沖縄から疎開してきた女の子を自分の家で預かることになり、ひと夏のことだったが、自分と 本当の兄妹のように暮らしたという話でした。戦後沖縄に帰ったがいまも音信があって、「沖縄に遊びに行 ったら、兄ちゃん、兄ちゃんと言うてくれてですね」と嬉しそうそうです。
沖縄にはそんな縁があるので、タクシーに乗せた二人の中学生にお昼ご飯をごちそうしたという話もしてい ました。二
夜明け・池の畔(首里)
夜明け・池の畔(首里)
人は沖縄から熊本市内の私立中学へ来た子どもで、そのうちの一人が財布を無くして昼食のお金がないとタ クシーの中で話していたからというのです。後日、その子のお母さんがタクシー会社にお礼に来たそうです が、そのお母さんの話を聞いていると、なんとその人は私が知っている人でした。
 タクシーに乗って、そんな話を聞いたのは昨年のことでした。しかし、巡り合わせというのは面白いもの で、私は、今回の熊本出張で偶然また同じ運転手さんのタクシーに乗ったのです。今回も昨年と同じホテル に泊まり、客待ちをしていたタクシーに乗ったのですが、「お客さん、どこから来なさっとですか?」から 始まり、女の子が熊本に疎開で来た話のあたりからどこかで聞いた話だなと思ったのですが、中学生の話に なって、あの時の運転手さんだと気づきました。しかし、私は、ヘェーッ、と初めて聞いたように相づちを うち、去年も同じタクシーに乗ったことは黙っていました。戦争が作った縁ではあったけれども、その運転 手さんにとっては、兄妹のように過ごしたあの幼かったひと夏の日々がいつも心にあり、沖縄の人に出会う とそれを語るのが楽しみでしょうから。
 荻堂さん。我が家の周りでは日の出とともにセミが鳴きだします。それが戦争を知らない私のいつもの夏 の一日の始まりです。

07/17/12



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