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寄稿]
くわっちーさびら・その2
文・写真
稲福 達也
北京の食卓
昨年、29年ぶりに北京へ行った。 万里の長城など5つの世界遺産を巡る4泊5日のツアーがあり、
乗り物酔いのために団体ツアーを嫌がる妻が珍しく行きたいと言いだしたのだが、高層ビルが立ち並ぶ
街の景観は隔世の感で、観光地で売り子がおみやげ品を“千円、千円”
と言いながらまとわりついてくる光景もかつては全くなかったことだ。
本場の中華料理もツアーの楽しみのひとつである。北京、上海、四川、広東など
の料理が日替わりで出て、10人程で円卓を囲むが、さすがに中国の食文化の影響を受けたウチナーン
チュだけあって、大皿に盛られた料理が出て来るたびに、これはゴーヤー(苦瓜)だ、シブイ(
冬瓜)だ、ウンチェー(えん菜
)だ、と沖縄と同じ食材を発見し、味の喩え方も「
これはウチナーのスーチキー(塩漬け豚肉)に似ている」と言ったりする。北京の食卓で、ウチナーン
チュのアイデンティティーが発露するのだ。毎食出た麻婆豆腐は、料理によって豆腐の食感も味付けも
かなり違う。その中で最初に箸をつけた妻が、この豆腐は口に合わない、と言ったものがあった。隣席
のAさんがどんな味かと訊くと、妻が「豆腐ようになりかけた豆腐みたいです」と答えると皆が笑った。豆腐ようは、島豆腐を発酵させた
もので、泡盛に合う珍味として知られているが、そこで豆腐ようを引き合いに出すとは我が妻も立派な
ウチナーンチュである。 | 沖縄の珍味“豆腐よう”
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最後の夜、北京ダックを美味そうに食べるAさんに娘さんが「中華料理が気に入ったようだから沖縄
に帰らないでいいよ」と言った。Aさんが「ここでは仕事がなさそうだから帰る」と答えたので、私は
「あの“千円、千円
”の売り子をしたらどうですか」と助言した。
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