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[ちゃんぷるー・どっとこむ
応援団
寄稿]
くわっちーさびら・その11
文・写真
稲福 達也
ミカン狩り
今月上旬、本部町伊豆見でミカン狩りが始まったので妻と出かけた。季節感に乏しい沖
縄で秋の訪れを告げる“カーブチー”という品種だ。案内所の先導車について山の中の農家に行くと小さ
なパラソルの下にテーブルと秤があり、作業着姿のオバアが出てきた。オバアは「1人250円で食べ放題で
す。鋏と袋と・・」と少し間をおいてから、「あのカキジャーグヮーを持って行って」 |
カーブチー |
と一人で笑って言い足した。どうやら枝をたぐり寄せる為の方言のカキジャーグヮー(ひっかき棒)が標
準語で出てこなかったようだ。ハブはいないでしょうね、と冗談半分で訊くと「何があっても
いませんよ。マングースがいますから」との返
事。何があっても、という言い方も可笑しいが、マングースに絶大な信頼を寄せるオバアを信じて、山の
斜面を切り開いたカーブチー畑に入った。すぐに一つ摘んでゴツゴツした濃緑色の厚い皮を剥くと周りに
強い芳香が漂う。甘酸っぱい果汁は爽やかだ。ああ、この香りとこの味だ!
1時間程で持ち帰り用の袋が一杯になったのでパラソルの所に戻り、秤で計って支払いを済ませた。
その時、オバアが足下の袋からカーブチーに似たミカンを20個くらい取りだして言った。「 これはタンカ
ンで、まだ小さくて食べられないけど、調味料に使えるから持って帰って。今朝、カーブチーと思って摘
んで、お客さんに味見で食べさせたら変な顔をしたのでタンカンだと気が付いた訳よ。息子に見られたら
叱られるからこんなにして隠してあるさぁ。桜が咲く頃は、このタンカンが美味しくなっているからまた
来て下さい」。
ウ〜ン、桜が咲く頃、か。オバアのその一言で一瞬周りの緑の山に華やかな色が浮かんだ。カーブチー
もまだ小さなタンカンの実も緑色で、風景にヤマトの秋のような色彩はないが、それでも季節はこれから
少しずつ移ろいで行くのだ。
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