[ちゃんぷるー・どっとこむ
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寄稿]
沖縄
でーびる・その18
文・写真
稲福 達也
裸の大将(2)
新聞は、裸の大将の話題を連日報じていた。その中から彼の言葉をいくつか拾うと、東京での壮行会で
は「三人前の食欲ぶりを示して“あしてびち”“らふてい”など出される琉球料理を片っぱしからペロリ
」と食べ、料亭の沖縄女性を見て「沖縄の女の人にも色の白いのがいるのは陽に当たらないせいなんだな、
やっぱり」。表敬訪問した琉球政府の主席(現県知事)に「沖縄の総理大臣はだれだね」と訊き、「兵隊
のくらいでいうと大将かな、やっぱり」。記者会見では「だれだって兵隊にはとられたくないよナ、やっ
ぱり。兵隊だけが偉いんじゃないからナ、やっぱり」。女性だけで演じる乙姫劇団の沖縄芝居を見た時の
記事の見出しは「女だったんだナ、やっぱり」。 | 守礼の門(素描)
1960年 山下清 |
やっぱりづくめ
のこれらの記事は、週刊誌で徳川夢声との対談で話した“兵隊のくらいでいえば”という言葉が
流行語になり、小林桂樹主演の映画「はだかの大将」も制作され、すでに全国で“清ブーム”が起こって
いたから、そんな裸の大将らしい書き方になっている。それはそれで面白いが、無表情で寡黙だった山下
清のものの見方の面白さは、彼自身の文章の中に表れている。しかし、残念なことに、山下清は沖縄での
出来事をなぜか文章に残していないようだ。
新聞によれば、沖縄での作品展は、会場周辺の商店の店頭が観客の行列でふさがれて商売にならないほ
どの人気だった。版画家の池田満寿夫は、「山下清の貼り絵ほど、日本の大衆に愛されたものはない。人
々はそこに魂の郷愁を見るからであろう。清の貼り込めた風景は、まさに日本人の原風景に他ならない」
と書いているが、米軍政下にあえいだ当時の沖縄の人々は裸の大将の絵に何をみただろうか。大歓迎を受
けた裸の大将が去ってまもない4月28日、沖縄では祖国復帰協議会が結成され、本格的な祖国復帰運動
が始まった。
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