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今月のレビュー

このページでは、沖縄関連の本、音楽、コンサート、映画などを論評(レビュー)していきます。

今月は、1994年から2004年まで10年間沖縄で暮らした作家、池澤夏樹の短編集「 骨は珊瑚、 目は真珠」 です。 

この本は数年前に友人がプレゼントしてくれたもので、久しぶりに日本の現代短編小説を堪能 したなあ、と思ったことを良く覚えています。

「眠る女」
「アステロイド観測隊」
「パーティー」
「最後の一羽」
「贈り物」
「鮎」
「北への旅」
「骨は珊瑚、目は真珠」
「眠る人々」

の9つの中篇、短編小説が収められています。

日本の短編小説と言えば私小説が多く、文体もどこかじめじめしている、というのが私の印象ですが、 ここに収められた小説は作家の経験や知識に根ざしてはいるのでしょうが、醒めた目で登場人物やス トーリーを観察し、描いていてまるでルポルタージュを読んでいるような感じです。情より理に勝った ような文体は、大学の理工学部中退という作者の経歴も関係しているかもしれません。乾いた、知的な 文体なのに、どこか憂いがあり湿り気もある。浮世の憂さを忘れてさらさら、さらさら、読み進んで いけます。友人も言っていたような気がしますが、沖縄の海辺でじっくり読みたい短編集です。

友人は「眠る女」を一番に押していました。イザイホー(琉球王朝の聖地・久高(くだか)島で、十二年 に一度、午(うま)年に行われる神事)をモチーフにした幻想的な小説です。

が、私のイチオシは表題にもなっている「骨は珊瑚、目は真珠」です。亡くなった夫の骨を砕き 海に撒く妻を、遠くからそっと見守る夫の話なのですが、ちっとも猟奇的ではなく、淡々とやさしく語られ、 現実味もあります。読んだ後これぞ究極の愛だなあ、と優しい気持ちになりました。以前から薄ぼんやりと 考えていたことですが、この小説を読んでから、死んだら遺骨を沖縄の海に撒いて欲しいなあ、と明確に 希望するようになりました。これでトートーメーやお墓の問題も一挙に解決?!しないかしら。

とても悲しい話で衝撃的だったのが、「北への旅」。映画や小説や詩や、文学作品を紡ぎだす人 ならおそらく誰でも思いつく、一度は描いてみたいテーマで、下手をするとすごく陳腐になってしまうと 思うのですが、この「北への旅」は最後の方までテーマが顔を出さず、秀逸の出来だったと思います。

フクロウが主人公の「最後の一羽」も、これまで読んだことの無いような小説でとても印象に残り ました。

できれば春休みに沖縄で読んで欲しい短編集ですが、寒さの緩んだ週末にでも、読んでみてはい かがでしょうか。 1/12/06

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