Home>今月のレビュー>サイトマップ


今月のレビュー

このページでは、沖縄関連の本、音楽、コンサート、映画などを論評(レビュー)していきます。

今月はアメリカのジャーナリスト、デール・マハリッジの著作日本兵を殺した父: ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち を 取り上げます。 

昨年暮れから読み始めて、最初は調子よく読み進みながら、苛烈さを極めた沖縄戦の凄惨なエピソードが これでもかと語られていくうち、どんどん辛くなって、最近やっと読み終えた本です。一昨年放送されたNHK のドキュメンタリーを観て興味を持ち、新聞の書評でも何度か取り上げられていて、これは私が読むべき本だな、 と感じ、読むことにしました。

幼いころから毎日のように戦争(私の家で当時戦争と言えば、ほぼ間違いなく沖縄戦のことでした)のことを聞かされ、 その関連の本もたくさん読んできたつもりですが、あの戦争を戦ったアメリカ兵から見た話というのは、聞いたことも 読んだこともありません。それが、私がこの本を手に取った一番の理由です。ちなみに私は英語版のBringing Mulligan Home: The Other Side of the Good War を読みました。こちらは表紙に著者の父親スティーブと戦友のマリガンの仲好さそうな写真が使われ、タイトルも 「マリガンを故郷に帰す」というような意味で、どういうこと?と、サスペンスを読み始めるときのように 大いに好奇心をそそられます。

冒頭、著者の子供時代の父親をめぐる思い出が描かれています。ちょっと退屈で散漫に感じる筆致なのですが、 いかにもアメリカの田舎の、中流以下の生活だけれど働き者でそれなりに穏やかに幸せに家族と生活している 父親が、時折ささいなことがきっかけで、怒鳴ったり暴力的な言動を見せたりすることがあり、そのために 家族は緊張を強いられていた、という事実にはっと胸を衝かれました。もちろん年齢も立場も性格もまったく 違うのですが、私の父とその家族の関係とそっくりだったからです。沖縄戦当時私の父は12歳で、おそらく 著者の父が所属した「ラブ中隊」が沖縄本島南端をめざして進軍していたとき、近くで家族と逃げまどい、父、 兄、妹を亡くしています。同じ戦場で、一兵士と敵の民間人という、全く違う立場でも、戦後は本人もその家族も 似たような苦しみを味わっていたのです。アメリカでは沖縄戦は圧倒的に勝利した「良い戦争」と言われていますが、 自国民の多くを犠牲にした戦争であることに変わりはなく、勝者も敗者も同じように苦しむのです。このことが、 この本が伝えたかった核心ではないか、と思います。戦争には善いも悪いもない、絶対に避けるべき悪だ、と。

戦争ものを読んでいると、日本の兵士はガダルカナルで玉砕、サイパンで玉砕、ミンダナオ島で捕虜に、とか、 一つの戦場で一兵士の運命が完結していることがほとんどなのですが、著者の父親はまずアメリカ本土からガ ダルカナルへ移送され、グアムで戦い、サイパンで戦った後に沖縄に上陸しています。ということは、沖縄に 上陸した兵士がすさまじい日本兵の抵抗を経験していて、すでに精神を病んでいる者も少なからずいた、という ことです。私はこれまで、アメリカ軍は圧倒的物量を背景に意気揚々と沖縄に上陸したと思っていたのですが、 彼らは沖縄ではこれまで戦ったどの島より日本の兵士や兵器が集められており、学生までも徴用したことを知 っていて、恐れおののいたらしいのです。で、恐怖のあまり、戦闘に参加できないように自分の足を銃で撃ちぬく 兵士もいた、と。アメリカでは評価の高いニミッツ提督ですが、著者は日本兵が待ち 構えている島に、犠牲をいとわず米軍を投入していったことに批判的です。つまり、自国の兵士の命を顧みな リーダーに率いられた両軍が最後に激突した戦場が、沖縄だったということです。その悲惨は、必然だったこと がよく分かりました。

このように、いろいろ新しい発見があって読み進めていたのですが、ラブ中隊の元兵士たちの証言が始まると、 驚くほど鮮明で残酷極まりないものもあり、写真も白黒なのでまだいいと思うのですが、痛ましいものがあり、 どんどん読むのが辛くなっていきました。最初に好奇心をかき立てられた、「マリガンを故郷に返す」ことには どう決着がつけられたのか、私の英語力と理解力が不足していたのかもしれませんが、私にとってはあいまいで すっきりせず、最後はやっと読み終える、という感じでした。

後半著者は沖縄へ実際に赴き、戦時の地図を片手にラブ中隊にとって重要な地点を訪ね歩きます。外国人が 見て感じた沖縄の様子を読むのはおもしろかったのですが、ちょっと感傷的過ぎるかなあ、と思う部分もあ りました。それでも、著者の父が持っていた沖縄人の写真の持ち主を探したり、関係者に話を聞こうとする 著者の姿には共感できましたし、沖縄戦を経験した二人の方の証言もきちんと翻訳されていて、この本全体で 感じられる、公平・中立であろうとする著者の姿勢には好感が持てました。

このごろは時間があると、先日発表された海外の識者による基地の辺野古移設反対の声明に対する、アメリカ人の感想 を読んでいるのですが、守ってやっているのに沖縄人はうるさい、そんなに反対なら米軍を引き上げよ、といった 論調が多いです。そんな感想を書いた一人一人に、この本を読んでほしい、と思いました。馬鹿だったら読まないし、 読んでも共感しないかもしれませんが。

2/03/14

このページに関す要望、感想などはこちらへ

お名前:
メールアドレス:
ご感想:

HOME