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先月花村萬月の「沖縄を撃つ! 」を読んでいて、そう言えばこういう本もあったなあ、と思い出して読んでみた本です。あまりにも主観的だった 「沖縄を撃つ!」を詠んだ後、もうちょっときちんとしたルポルタージュを読みたい、と思ったのも動機でしょう か。それから最近著者の佐野眞一が週刊朝日に、橋下大阪市長の出自に関するあまりにも差別的な記事を書き、連載が 中止になり謝罪文が掲載されたことが話題になり、結構骨のあるジャーナリストと思っていたのにがっかりしたこと がありました。そんな筆者が我が沖縄をどのように書いているのか再び興味が沸いた、ということもあります。 発刊された当時、この表紙の女の子の表情とタイトルから、ウチナーンチュにとって耳の痛い話が詰まってい るのだろうな、とは思っていました。 |
さすがに、「沖縄を撃つ!」よりは客観的で読み応えがありましたが、どのテーマも中途半端な印象はぬぐえませ んでした。筆者のジャーナリストとしての出発点がヤクザ向け!?タウン誌に記事を書いていたことだったからか、 「沖縄アンダーグラウンド」の章はおそらく最も力作で、取材も丁寧な印象なのですが、いかんせん私はヤクザな 世界とは無縁であまり興味もないので、猫に小判でしたね。沖縄の四天王と言われた実業家の列伝は、私の級友の親戚だったり、家 庭教師として教えた子供の祖父だったりして、でも実績についてはあまりよく知らなかったので、興味深く読めま した。
沖縄知事選や芸能、米軍基地についてもかなり取材をして書いた印象はありますが、結局筆者が何を訴えたいのかは 、あいまい。ジャーナリストは客観的事実を書けばいいのであって、あまりに主観的な、感想文みたいなことを 書くのはどうかと思うのですが、そこにジャーナリストの視点や訴えたいものが何かが分からないと、読んでいて 案外つまらないものだな、というのがこの本と先月の「沖縄を撃つ!」を読んでの感想です。特にライブドア事件に 関連して沖縄のカプセルホテルで怪死した野口英昭氏の記事は、その事件を中心的に報じた週刊文春の記事のこと を「真偽のきわめて怪しい記事」と馬鹿にしていますが、この本の中で筆者がこの記事を取り上げる意味が感じられず、 ただこの本のページ数を増やしただけ、のように感じられました。
ウチナーンチュとして一番耳が痛かったのは、沖縄本島における奄美出身者に対する差別の話でした。友人の母親が 奄美出身者で、昔は奄美出身者は沖縄で差別されていて男はヤクザ、女はパンパンになるしかなかった」と言って いた、というのを友人から聞いたことがありましたが、その母親はもちろんパンパンではなかったし、同級生には親 が奄美出身、という人が多かったのですが、他のウチナーンチュと何ら変わりなく生活していたので彼らが差別されている、 という実感は全くありませんでした。事件を起こすと必ず奄美出身と書かれた、とか公務員の給与に差別があった、 とかいうことは私が生まれる前のことなので、そういうことが実感できなかったのかもしれません。これからは、沖縄の 戦後史の中でそういう事実もあった、と心に留めておこうと思いました。
筆者が橋下氏の記事で見せたような、対象(この本の場合は沖縄)に対するあからさまな敵意というか、憎しみは 感じられず、かなり足しげく沖縄に通い、多くの人に会い、取材をした上で書き、話をねつ造しているという風に 感じられることはないので、沖縄のいろいろな側面を知りたい、という方にはおそらく読む価値のある本でしょう。
06/03/13
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