Home>今月のレビュー>サイトマップ
|
2005年の刊行直後から新聞広告や書評欄で取り上げられ、周囲からも「面白いよ」と
言う声が聞こえていた本で、読みたいと思いながらしばらく読めずにました。 面白くて面白くて、本を置くのが勿体ないほど、という感想を聞いて大いに期待して読み始めたので すが、私自身は読み進めていくほどに、作者の思い入れの強さが空回りしているという感触が否めま せんでした。 まず前半で夏子の伝説的な女傑ぶり、商売人として先を読む人並みはずれた才覚を示す多くの証言が 紹介され、徳之島で育ち結婚してフィリピンで生活していたことなど生い立ちが紹介されます。彼女 の個人的な事情に付随して、当時の沖縄の社会や政治的な状況も詳細に描かれていて、その辺は非常 に興味深く読めるのですが、そういう事実と彼女の傑出した才覚がどう結びつくか、どんな因果関係 があるかが、私が納得できるほど明確に描かれていなくて、何となくすっきりしません。 |
一つ一つのエピソードが最後には太い線となって、夏子という密貿易の女王をくっきりと浮かび上が らせる、という私の勝手な期待は裏切られましたが、密貿易という性質上公的文書もほとんど残され ていず、夏子を直接知る人たちも鬼籍に入るか老いて記憶が曖昧になる中で、よくぞここまで調べて 書いてくれました、という賞賛の気持ちが自然と湧いてくる労作ではあります。
こんな大作を書くくらいだから、沖縄への思い入れには一方ならぬものがあるのでしょうが、「ボー ダーレスを連発しながら、ちっともボーダーレスでない現在のウチナンチュウ(沖縄人)」など、ウ チナンチュウには痛いけれど的を得た指摘も多く、好感が持てました。
終戦直後の米軍占領下の沖縄の描写では、へえ、そうだったのか、と思う意外な事実や新発見もあり、 沖縄に興味がある人にはお薦めです。 5/22/08
このページに関する要望、感想などはこちらへ